声、再び

 滋賀県は甲西にある、にごり池前の鳩一つマークのスーパーでの、A社の
納豆のデモから帰ってきた。

 むかつく! むかつく! むかつく!
 腕章をしめていたからには、あの兄ちゃん、少なくとも「主任」以上の
地位だわな。
 Iグループの某店のマネージャーがそうであるように、あの兄ちゃんも、
大卒ゆえ、そして、立ち居振る舞いの器用さゆえ、地味ながらコツコツと
頑張ってきた大卒でない先輩をさしおいて出世したクチだろう。
 だから、あのような偉そうなものの言いようが出来るのだ。

 そりゃ、私たちマネキンにとって、声は大切だし、それをずっと出し続
けることは、いわば至上命令だわな。
 と言って、あなた、私たちだって、テープレコーダーじゃなく、人間だ
もの、デモの始まりから終わりまで、ずっと出し続けることは不可能に決
まっている。声がつぶれてしまうからね。
 ちょうど、マラソン選手が、レースのどの地点でも全力を出せない(出さ
ない)のと同じだ。

 お客様が少ない時をみはからって声を休ませるのが、私たちのやり方。
 今日もそうしていたら、くだんの腕章をした兄ちゃんが通りかかり、ふ
と足を止めるや、私に尋ねた。

「今日は納豆をどれだけ売ってくれはるんですか?」
 納豆担当者でもなく、そもそも自分が何者か名乗らないお前にどうして
尋ねられないといけないのかと、黙って見返したら(主任はもとより、店で
トップの店長だって、自ら身分を明かし、私たちに声をかけてきたのだよ。
これはこの店だけではない)、ゴジラのような顔をひきつらせ
「販売目標は?」
 ときた。
 その横柄な口調に、ますます気分を悪くし、曖昧に答えていたら、パー
トさんが助け船を出してくれた。
「今日はこんだけ入れています。どうにかさばけるのでは?」
「そうですか? じゃ、マネキンのあなた、完売して下さいね」

 繰り返す。
 デモンストレーションの最初から最後まで、声を出し続けることは、不
可能。
 注意する側は、その場だけを観るのではなく、ある程度の時間の流れを
経て、総合的に私たちを判断して欲しい。