マネキンになってよかったこと 女性性を認められること

ちなみに、現在は、女性ジャズプレイヤーの草分け的存在であるメアリー・ルウ・ウィリアムスのゴキゲンなピアノを聴いている。
 シンガーは数多けれど、プレイヤーはまだまだ女性は希少価値のジャズの世界。
 昔はもっともっと「男社会」だった。
 そんな中、メアリーおばさんは、頑張ってきた。
 女性であることに甘えず、でも、決して男性と競うのでもなく。
 結果、技術面では男性ジャズピアニストにひけをとらない実力を蓄えつつも、感性面では女性でしか
あらわしえない独特の表現方法を身につけた。

 マネキンになってよかったと感じられることの一つに、自分の「女性性」を素直に認められたということがある。
 ぶちまければ、「女に生まれて得をした」と思う。
 業務の性質から言えば、マネキン業は本来は性別は関係ないはずなのだが、現実には女性の方がずっと有利。
 なぜって?
 マネキンが接客対象とする層の大半が主婦ないしその予備軍、あるいは主婦に極めて近い立場にいる
人々だからだ。

 ホテルのディナーや料亭の懐石などは別として、「飲食」はまぎれもない「日常」である。
 日常を語り合い、共有するには、似た土壌に立っていることが望ましい。
 同性の、そこいらをぞろぞろ歩いている「おばさん」や「おねえさん」が良いのだ。
 男性や、女性でも権力を持つ「えらいさん」はノーグッド(エリート女性は意識の上では男性化して
いることが多い)。

 ひとつ、マネキンと呼ばれる人に接する機会があったら、男性マネキンと女性マネキンのトーク
容を比較分析して欲しい。
 男性マネキンが「理論」に重きを置いた「説明型」トークをしているのに対し、女性マネキンは自
分の「生活」を語ることでお客様の感情に訴える「共感型」トークをしていることが多いでしょう?
 そうなんである。女性、特に主婦は体験談が大好き。自分では語らずとも、他人がしゃべるのを聴
くのは、抵抗がないはず。
 夫と娘を捨てて年下の男と駆け落ちをした体験をもとに小説やエッセイを書き続けた瀬戸内寂聴や、
未婚の母になった過程と結果を売物に一世を風靡した桐島洋子が、主婦たちに反感を持たれながらも
最終的には主婦たちの共鳴も得ることが出来、成功した一因が、ここにある。

 悲しいかな、この恥も失敗も含めた体験を赤裸裸に語ってサマになるのは、女だけなのね。
 男は、あまりにあからさまに明かしてしまうとみっともない。
 酔っぱらいが薄暗い夜道でゲロょ吐いているような意地汚いイメージになってしまう。

 女であることを最大に活かせるマネキン業。
 「女」に抵抗を感じない女性なら、とてもいい状態で仕事が出来る。