ウチがエエ加減だとソトもエエ加減

 マネキンになって二度目の夏だったか。関西の某地方にある遊興施設に、一週間ほぼ連続
で、健康酢の試飲販売に出かけたことがある。
 
 この時の体験はまことに辛いもので(特に施設の事務所を仕切っているおばさんに泣かされ
た。先ほどの新大阪の土産物屋の事務員のボス同様、彼女もいわゆる「おっさん化」した女で、
私は二度とかかわりあいを持ちたくないと思っている)、こうして振り返るのも実は苦しい部
分があるのだが、ただいまプログにつづっているテーマの関係から、あることを、どうしても
書いておきたい。

 初日の午後だった。
 従業員トイレに入った私は、我が眼を疑った。
「き、きたない……」
 信じられるだろうか。
 便器はおろか、床も壁も戸も、あげくドアノブまでが、薄い膜で
も貼ったようにくすみ、コーナーに置かれた汚物入からはナプキン
やらその包装紙やらが溢れ、周りにころがっている。
 もちろん(?)、便器内にこびりついているのであろうアンモニアとナプキンに染み込んで固
まった経血の匂いが入りまじり、思わずむせてしまう異臭が垂れ込めていた。
 手洗い場所のシンクも黒ずんでおり、鏡はくもりだらけ。
 何日も、否、もしかすると何週間も掃除をしていないことは明白
だった。

 あまりの気持ち悪さに、次から、私はトイレは従業員用ではなくお客様用を使うこととし
た(本当はいけないのだけれど)。

 自分たちが毎日つかう場所の清掃をかくもなおざりにしておいて、あの「ベテラン」事務
員、よくも私たちマネキンと業者にあれだけ高飛車に振る舞えたものである。
 彼女の評判は、後輩たちにもよくないとみえ、何人かは、彼女と向かい合う時には明らか
に身をこわばらせ、声もいくらかうわずっていた。「お山の大将」の前に、事務所内の人間
関係もぎくしゃくしていたのだろう。

 彼女の独裁制がもたらす「恐怖政治」の弊害が、従業員トイレの
状態にあらわれていた。
 皆、お局様のご機嫌をそこなわないよう日々気を使い、それだけでエネルギーを吸い取ら
れてしまうのだ。結果、自分たちが過ごす場所を少しでも快適にするという考えも浮かんで
こない。
 
 そもそも笑えるじゃないの。あそこまで汚れたトイレで用を足しても何とも感じない「無
神経」な人間が、我々に、重箱の隅をつつかんばかりの細かい点でツッコミをいれるなんて。

 この遊興施設。それから数年を待たずして、閉鎖した。
 わかるよねえ。あれだけウチを散らかしておいて平気な「エエ加減さ」
は、ソトにいるお客様への態度にも必ず出る。
 売上が下降線をたどるのも、自然の摂理だ。