裸の王様


五月最終日曜日の仕事は、
大阪の某市の駅前スーパーにて、健康酢のデモ。
この店舗には6年ぶりにやって来た。


と言うのは、ここの加工食部門(酢など、保存がきく食品は加工食に分類される)を仕切っていたKが「名物」級の偏屈者で、行くマネキンのほとんどがそうであったように、6年前に行った私も「被害」に遭い、
「Kさんの忌まわしいデカ顔を二度と見たくないから、あの人がいる限り、あそこには行きたくありません」
と、派遣会社に明言。現場リストから外してもらったからだ。
とうぜん今回も仕事を打診された時点で断ったが、派遣会社の人選担当者に
「Kさんはもうあの店にはいませんよ。他の店に移動しています」
と伝えられ、そういうことならと受けた。

K。見事なまでに悪評たらたらのおっさんである。
我々マネキンからはもちろん、業者の営業やラウンダー、派遣会社の店舗巡回者、さらに仕事仲間であるはずの同店のパートやアルバイトに対してすら、それはそれは横柄に振る舞う。しかも、異様なまでに物事に細かく、くどい。
当然、蛇蝎(だかつ)の如く嫌われていたが、本人はどこ吹く風。むしろ毛嫌いされることを歓迎しているふうだった。

私がこうむった「被害」は、出るところに出たらパワハラとして正当に認められるレベルのもので、話を聞いた夫は激怒したけれど、派遣会社やエージェンシー、メーカー営業の立場もあるので、関係者や業界仲間だけの「内密」とした(こういうケースはこの世界でなくても多い)。

ここまでいかなくても、バッドエピソードは掃いて捨てるほど。
一つだけ紹介する。

京都府内の某市に住むベテランマネキン。キムチ鍋のもとであの店で仕事をし、終了後、うっかりバックヤードに空瓶を三本置いたまま、帰ってしまった。

途中駅まで帰ってきていた彼女の携帯に着信音があったのは、約40分後。派遣会社からだった。
「空瓶をほったらかしにしたと、Kさんがカンカンになって連絡してきました。すぐに店まで引き返して瓶をきちんと片付けるよう、言っています」。

そりゃ、忘れて帰るのは確かに悪い。悪いが、わずか三本である。その程度、一生懸命に店の売上に貢献してくれたのだし、片付けてあげるか、せめてクレームの電話だけでよかったのではないか。引き返して片付けろなんて、横暴きわまる。自分で片付けるのが嫌ならバイトの子にやらせたらいいのだしね。

K。昨年に転勤となったそうな。どうりで、この日、つくづく感じたね、パートさんたちの表情や口ぶりがものすごく明るくなった、以前のこの店に戻ったなあと。
現在のここの加工食部門の責任者は、優しいおじさんである。

K。頭の悪い男だと思う。彼から「大手スーパーの管理職」という肩書きを取ったら何も残らない。ただのおっさんだ。それがわからず、偉そうにするとは。

仕事仲間にこの話をしたら、
「Kさんは裸の王様ですね」
と返ってきた。
いい例えだ。

ちなみに、アンデルセンの童話で知られる「裸の王様」にはモデルがいるとされる。あのような王様がスペインに実在したのだ。

いつの時代にも、世の東西を問わず、権力をカサにする人間はいるのねえ、、、。