クセも味のうち

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久方ぶりに納豆のデモンストレーションを担当した。
メニューは、炊きたてご飯に納豆を乗せるだけの「納豆ごはん」。
もっとも、体験から言わせていただくと、この何のひねりもないシンプルさが、実は一番お客様に受ける。
納豆自体の味もよくわかるしね。

それにしても、納豆はよく食べられるようになった。
十年ほどまでは、「私、納豆だけはアカンねん」とおっしゃる方がまだまだ珍しくなかったのに、年毎に減少。現在ではほとんど見かけない。これは、学校給食に納豆が取り入れられて「子どもの納豆嫌い」に歯止めがかかったこと、メーカーも改良を重ね納豆が敬遠される最大のもととなっている匂いをギリギリまで抑えられるようになったこと、この二点によるものだろう。

ところが、世の中は面白いものである。こうなったらなったで、あの強いインパクトを持つ昔ながらの納豆を懐かしむ声が、お客様の中から必ず一定数は出てくるのである。
「おねえさん、知ってる?」
大ぶりな金縁眼鏡をかけた、ちょっと小うるさそうな(神経質そうな)おばさんが、私に話しかけてきた。
「元からの納豆。こんな発泡スチロールのケースに入っているんじゃないやつ」
「藁にくるまれた納豆ですか?見たことはあります」
「前はスーパーにも時々置かれていたのよ」
「ああ、そうですね」
「あれね、パッケージが藁だからいいの。匂いがこもらない」
「はあ」
「昔の納豆の匂いは、今の匂い控えめに作られた納豆の比じゃない、そりゃすごいものだったから、匂いの出ていくところがないと困るわけ」
「なるほど」
「今の納豆、食べやすいけれど、個性がないね、どれも」
「そうですか?」
「包みを開けたとたん、絶対に忘れられない匂いがムワァー。我こそは納豆なりぃ~という感じ。あれがない」
「確かに」
「食べ物なんて、本来、どんなものにも少々のクセはあるものよ。それも美味しさのうち」

お客様が訴えんとしている主旨はよくわかる。
平成の現在(いま)、主菜はもちろん、副菜、さらに食後のデザートや飲料にいたるまでアッサリにしてサッパリ系がもてはやされている。
こうまで引っかかりのない食べ物ばかりだと、逆にアクともとれるほど「強烈」なナニカを持つ食べ物に、人は、郷愁感も含め、惹かれる時があるものだ。

写真は、台湾の夜市で見た、名高き「臭豆腐」の屋台。
豆腐を醗酵させて作る臭豆腐の匂いと、匂いとは裏腹の美味は、さしづめ台湾の納豆といったところか。
「オクサン、オヒトツイカガ? トテモオイシイヨ」
と、店主らしきおじさんにさかんに勧められ、
「何事も経験だ」
とその気になりかけたが、、、ああ、やはりダメだったわ、あのクセのある匂い。