小売業界のパワハラ その3~空瓶置き忘れ事件

Aの悪評はとどまるところを知らず、少なくとも私たちデモンストレーターの間では年毎にひどくなっていっていると感じる。

その一。
「業務終了後、後片付けをすませ、日報に認めの印鑑ももらい、さあ帰ろうとした矢先、品出しを言いつけられた。仕事は終わったはずなのにと思いつつもその日の担当メーカーが世話になっているのだからと承知し、やっとし終わったら、また別の品出し。ブチ切れそうになった。こちらは片道2時間以上もかかるところから行ってたんやで」(デモンストレーターはあくまで取引先であるメーカーからの派遣。店の従業員ではない。特に理由がない限り、定められた時間を超えて働かなくてもよろしい)。

その二。
「デモ商品のすぐ隣にざっと200円も安い他社の競合商品を置かれ、そんな状況で完売を強要された」(私も他店で体験あり。100g198円の高級ブランド鶏肉の真横に100g98円の自社ブランドの鶏肉を並べられ、完売しなかったら「仕事をせず遊んでいた」と決めつけられた)。

その三。
「前日挨拶電話もして、入店、挨拶とすませ、売場に行ったらその日の担当商品とは違う商品が並んでいた。確認のためバックヤードに戻ってAに尋ねたところ、こちらが開店前に忙しくしている時に聞くとは気ィきかんやっちゃと怒鳴られ、延々と説教された」(怒鳴るほどのこと? 第一、忙しいのなら説教する暇はないはずだよね?)。

他にも、たっくさん、たっくさん。キリがないほど。
中でも極め付けは「空瓶置き忘れ事件」だろう。

数年前の鍋シーズンの最中、とある鍋つゆの宣伝販売でAがいる店を訪れた、デモンストレーターのCさん。
つつがなく仕事を終え、店を後に。
我が家に着くまで後30分あまりというその時、Cさんの携帯電話が鳴った。派遣会社の本部からだった。
「あの、メーカーの営業さんが連絡してきまして、、、。Cさん、今日、〇〇(スーパーの名)の△△店に□□鍋で入られましたよね? お仕事で使われた鍋つゆの空瓶、バックヤードに置きっ放しにしていないですか? 何でもAさんが見つけてカンカンに怒り、すぐデモンストレーターに店に引き返させて本人の手で片付けさせろと営業さんに電話したらしく、、、。悪いんだけれど、Cさん、Aさんが言うようにして下さい」。
哀れCさんは、疲れた身体をまた店に運んだ。
たった三本空瓶を置き忘れただけで。

所定場所に捨てるのを忘れたのは、確かに悪い。
悪いが、故意にではなく、ついうっかりしていただけ。似たようなミスを仕出かす人は少なくない。
それに、ささやかではあったかも知れないが、Cさんはデモンストレーションを通して店の売上に貢献したのだ。
空瓶三本の置き忘れくらい、大目にみられないか?
自分で片付けるのが嫌だったら部下にやらせたらいいのだし、常識的に考えたらAの要求はやり過ぎだ。

私が不思議でたまらないのは、いくら仕事は出来ても、こういう子どもじみたイジメを自分より立場の弱い者に確信的に繰り返すAのような「境界性」人間が組織内でどんどん認められ高い地位を与えられていっている(私やそれ以上の世代の言葉でいう「出世」)ことだ。

なお、Aを嫌っているのは私たちデモンストレーターばかりではない。取引先の営業はもちろん、自分が勤める店のパートやアルバイトも然り。
実際、Aが長年いたX店からY店に移動となった後にX店に仕事に行った時、「パートさんたち、明るくなったなあ」と驚いたものだ。

Aみたいな人間はたまにいる。
老若男女、関係なし。
他の業界も、きっとそうなんだろう。
いや、業界によっては、「たまに」ではないのかも。
「たまに」と言えるのは、ナンタラカンタラ愚痴っても、デモンストレーターの仕事が好きだから「たまに」なのだと思う。