ワクワクを感じてもらえる売場作りや演出も、静かな自己PRね。

Aさん(仮名)が、全国に店舗展開する某スーパーのパート職として再就職したのは、下の子どもが一人で留守番できるようになった、小学校四年生の時。
研修期間を終え、仕事を一通り覚えて人間関係にも慣れた数ヶ月後、とつぜん上司にこう声をかけられた。
「ね、売場を作ってみない?」

Aさんは驚いた。確かに、結婚前に勤めていたデパートでは幾度となく季節ものや企画ものの売場を作ったことがあり、それはスーパーに再就職先する際の面接でも話していたけれど、分野も客筋も全く違う。しかも、入社して、まだ半年も経っていない、、、。

そんなAさんに上司は言った。
「いやいや。主婦としての生活体験や感覚を、そのまま、素直に活かして欲しいの。このコーナーならこんな商品が欲しいとか、こう並べられていたら買う側にわかりやすいとか手に取りやすいとか、こういう説明のPOPがあったら親切で嬉しいとか、独身の私や男性では気がつかない発想がきっとたくさん浮かぶと思う。毎日の暮らしが楽しい。そんなワクワクをお客様に感じてもらえる売場作り。お願いしたいな」。
Aさんは承諾した。

この顛末をAさんが、たまたま鍋のデモでそこのスーパーを訪れていた私にすることになったのは、社員食堂で隣り合わせた際、私が
「明日は別の店で高級鍋つゆ。老舗が作ったものだからメッチャ美味しいんですけれど、高いから、なかなか売れへんのですワ」
と愚痴をこぼしたのがきっかけ。
Aさんはアドバイスしてくれた。
「この鍋つゆは特別なんだとお客様が思ってしまうような、高級感あふれる雰囲気を、その鍋つゆが置いてある一角に作ってみたら?」。

かくして、翌日。
私は、それなりに風格がある(と見える)和風のテーブルクロスと盆、箸、そして備前焼の箸置きと小鉢(この二つは本物)を用意して、試食台をセッティング。小鉢には、鍋用の野菜を切っている間につゆを希釈した液で作った「かぼちゃの煮物」の見本を盛った(見本だから火は完全に通らなくてもよい)。

大成功だったね。
高級ムード満ち満ちで、かつ、箸置きとかぼちゃの煮物を盛った小鉢はまぎれもなく高級品なので目立ち(「あら、備前焼ね」と近寄って来た人もいた)、いやが応でも「この鍋つゆは鍋以外に煮物にも使えるのね」と、知っていただけた。
もちろん、販売数はオン、オン、オンの字よ。

ほんの少しの工夫がお客様の心に良い印象を与えたなら、反応も変わってくるし、ひいては売上にも結びつくのだ。
商品そのもの売場なら、尚更その傾向は強いだろう。

でね、この売場作りと演出も、主体は商品ながら、それを作り、それを見せた「人」も、静かに自己アピールしていると言えないだろうか?