もう十数年も前になるかしら。業界では知らぬ者は滅多にいないであろう老舗が開発した調味料のデモを担当することになった。
老舗が長い伝統の上に威信をかけて作っただけあって、その調味料の風味は抜群。食べたあとで口中にふわりと広がる後味も良い。
ただ、それだけに価格も「お高い」設定であることが、デメリット。
「これ、どうやってPRしようかな。芦屋夫人が通うようなセレブスーパーでもない限り、販売は難しいよね」
思案していた私にある店のパートさんがアドバイスをくれた。
「その商品が並んでいるところだけ特別だ、つまりこれは高級品なのだと、お客様に感じさせる演出をしたらいい」。
アドバイスに従い、デモ日、私は備前焼の器(それなりに知られた作家が焼いたもの。備前焼を選んだのは私が備前市出身だから)と箸置きを持参。
試食メニューであった筑前煮を手早く作り、その一部をラップした上で「見本」としてデモテーブルの上に陳列。もちろん器の下には和風のテーブルクロスを敷き、箸置きに置く箸にもこだわった。
「見本コーナー」を作ったのだ。
効果は抜群。
何の変哲もない筑前煮も、それを盛った器、ないしテーブルクロスなどの風格のおかげで、実際より何倍も美味しく感じられる。
「見本コーナー」に足を止めるお客様は多く、それがきっかけで話が弾み、店の人も驚くほどの売上を達成することが出来た。
もっとも、私自身は、
「販売している」
「仕事をしている」
という意識はなく、わが故郷の特産物を介し、いろいろなお客様といろいろなお話が出来、まるで遊んでいるように楽しく1日を過ごした。
「遊び」ですよ、「遊び」。
どんな仕事でも、どこかに「遊び」要素があると、仕事人のリラックスにもつながり、望外の結果につながること、多いのではないかな?
写真は、とりあえず、備前焼の箸置き。