暑い一日。古都は燃え上がった。
もっとも、冷商品売場の前に一日中いた私は、身体の芯からガチガチに凍り付いた。
昼食に食べた京風ラーメンの温かさが四肢の隅々まで染み渡った。
アイスコーヒーのデモは、易しそうで、なかなか難しい。
低価格のブレンディは何もしなくても売れるし、高価な小川珈琲も、値下げさえしていてくれたら、
これはこれで売れる。
低と高の中間くらいに位置するUCCレベルのクラスが、一番しんどいのよ。
コーヒーは好き嫌いがあるし。
にずっと美味だと感じている。わけても、アロマシリーズの有機コーヒーとかハワイコナになると、
もうたまらないと言うか(高価だから滅多に買えないんだけれど)。
それなのに、アイスとなると、どうしてこうなの?
悪いけれど、小川の方がずっとコクがありまっせー。
いや、UCCのもコクはあるんだけれど、小川と比べると、いかにも物足りない。
まあ、しかし、とらえようである。
物足りないということは、あっさりしていて、癖がないこと。
後味の良さにもつながる。
ここを強調して、とにもかくにも売った。
人間の味覚は流動的なもの。暗示にもかかりやすい。
お客様が試飲し、口中でまだ味わっておられる時、すかさず
「ね、おいしいでしょ? 甘さひかえめですっきりしているのにコーヒー本来のコクと香りは十分に残してありますから、ミルクとミックスしてカフェオーレにしていただいても、ミルクにコーヒーが負けないんですよ」
といれると、ほとんどのお客様は
「ふんふん」
と、首を縦に振られる。
自分で味の判断を下す前に、たたみかけるような他人の言葉に、ついつられてしまうんだね。
私自身は、アイスコーヒーは滅多に飲まない。
冷え性のせいか、真夏でも、どうしても身体はホットを要求する。
それに、まったりとした八月の昼下がり。けだるい気分のままに傾けるカップの中のコーヒーは、やはり氷がパリパリ鳴るアイスコーヒーではなく、冷めかかったホットコーヒですよ。