一針一針~手縫い効果

私たちデモンストレーターに制服はない。派手でなければ、基本的にどんな服装でもOK。
ただ、靴も含めた「望ましい装い」の基準はある。「白シャツに黒パンツ、あるいは黒スカート。黒の革靴」というのが、それ。寒い時期にはカーディガンやセーターの着用を認められるが、色は黒か紺かグレイのみ。
何とも愛想ない装いではある、、、昨今は、制服にもファッショナブルなタイプが多いのにね。

その愛想ない装いのパーツの一つ、黒パンツの裾が、何かに引っ掛けたのだろうか、ほつれていることに気づいた。
ボタンやフックが外れた時くらいしか取り出さない裁縫箱を開け、どうにか針に糸を通して(加齢による視力低下で、ここ数年、これが億劫になってきている)、繕い始めた。

不器用な私。補修はなかなかはかどらない。一針、一針、もどかしいほど。なのに、、、どういうこと? のっそりのっそりと針を運んでいるうちに、気持ちが次第に落ち着き、心が穏やかになっていったのだ。

ここで、
「イライラしたり、落ち込んだりすると、古布で雑巾を縫うねん。針を運んでいると、気分も持ち直してくる」
と語っていた、ある同業者の言葉を思い出した。
「ははーん。あの人もきっとこうなのね」。

繕い物をしたり、雑巾を縫う作業そのものは、単純なこと=針を刺すことの繰り返しである。
これが、いろいろなものを抱え過ぎてパンク気味になっている脳には、いいんだよねえ。
機械的に同じ工程を繰り返すうち、脳は不思議とクリアになり、自然と荷物を一つ、二つと捨てていく。

そう言えば、お客さんの中にも、こんな人がいたな。
「子どもが入院した時、すごくつらくて、付き添うそばでせっせと刺繍枠に向かって針を刺し、気持ちを紛らわせていた。すると、一針一針が、花になったり鳥になったりしていくのよね。それを見ると元気が出てきて」。
このお客さんとは、接客中、襟元に見事な刺繍を施したブラウスを着ておられたのを私が発見し、
「お客さん、それ、ご自分で刺繍されたんですか? 綺麗ですね」
と話しかけたことが、きっかけで、お客さんと販売者の枠を超えて親しくならせていただいた。
写真は、そのお客さんがプレゼントして下さったテーブルクロスである。

手縫い効果。捨てたものではない。ストレス発散にもなって、しかも何らかのカタチになる。
器用不器用に関係なく、お金を出せばそれこそ雑巾でも買える現在だからこそ、見直してもよいのではないか。
もちろん、「縫う」にこだわらず、「編む」でも「折る」でもいいね。

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