食べられなかったものが食べられるようになると、世界が変わる〜糠漬けのエピソードに寄せて。

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(注)11月30日に書いた記事。

 

夫の、入院手術を受けた病院とは別に通っている漢方診療所での診察に付き添い、今そこの待合室にいる。

狭い部屋に漂う、恐らくは漢方薬の素材となっている草の匂い。

これは、現在65歳の私が、小学校に上がる前にちょくちょくお世話になった、村にただ一軒あった薬屋さんの匂いだ。

古めかしくも、懐かしい、あの匂い、、、。

 


物心つく頃から胃腸が弱く、頻繁に下して、そのたびに医院や薬屋と仲良くしてきた割には、消毒液や薬品の匂いはトラウマになっていない。

それなのに、どうして、昭和40年半ばくらいまでは地方の農家の台所では必ずと言ってよいほど漂っていた糠漬けの匂いに、大人になった後も引きずるほどの抵抗を感じるようになったのだろう?

 


もっとも、そんな同世代は、実はけっこういる。糠漬けの宣伝販売の現場でも、何人もお目にかかった。

滋賀県中部の某ローカルスーパーで会ったお客さんもそうだった。

「昔の田舎の糠漬けは、言葉ではあらわせられないニオイがしてね」

その人は話し始めた。

「あのニオイだけでアウト。きゅうりやなすびの糠漬けも大根を漬けたたくあんも大嫌い。それを食べられるようにしてくれたのが、嫁さんなんや」

と、横にいた奥さんを視線で指した。

 


奥さんがご主人に代わって続けた。

「私はいちおう栄養の学校を卒業しているので、糠漬けなんかの発酵食品の良さはアタマでも知っていたんですよ。それに、実家の母親が漬物作りが得意で、子ども時代からその美味しさに触れてきた。これは、ぜひ主人にも食べてもらおうと」。

 


奥さんがまずしたことは、要はニオイが原因で糠漬けを口にする気になれないのであればそのニオイを気にしなくてすむようなレシピを考えること。

「おねえさん(私のこと。関西では、しばしば相手のことを、若くはなくても「おにいさん」「おねえさん」と呼ぶ)、1度たくあんを入れたチャーハンを作ってごらん。ごま油でたくあんを炒めたらニオイは気にならなくなるし、たくあんから出た塩分で味付けも最低限ですむ。ポリポリして、いくらでも食べられるで」

他、きゅうりやなすびの糠漬けは握り寿司のネタにもなるし、キャベツの糠漬けはヨーグルトで和えるとサラダ風になるし、きゅうりの糠漬けやたくあんはごま油と相性がいいので炒め物にしても、、、と、いろいろ教わった。

 


一連の会話の中で、特に印象に残っている、ご主人の一言がある。

「食べられなかったものが食べられるようになると、世界が変わる」。

そうなんだよね。たかが食べ物1つでも、確かに変わるんだよね。このことは、宣伝販売の仕事に就くまで糠漬けと鶏肉が食べられなかった私は、身に染みている。

 


最後に、繰り返しにはなるけれど、あらためて問う。

昔の田舎の糠漬けって、なぜ、あんなにクサかったのだろう?

 


写真は、烏丸今出川交差点にて。

秋も今日で終わり。

たくあん漬にいい時期だね。